7 もっと話がしたい

7月31日
2時間睡眠になってしまったけどホテルのベッドで寝られたおかげで体はだいぶ回復した。隣のベッドで寝ていたムティアが声をかけてくれて目が覚め、とっさに「何時?!」と聞いて、しかし答えてくれた彼女の言葉を勘違いし、時計を確認しないまま寝坊したと思って大慌てで支度をしてしまった。実際は寝坊していなかったし慌てたせいで日本から持ってきたシャンプーや石鹸をバスルームに置いてきてしまった。まあいいや…

昨晩から8人くらい?で移動していて、そのほぼ全員で朝ごはんを食べに行った。ホテルのすぐ近くの道沿いにあるお店で、ソトという具沢山のスープを飲んだ、テンペも美味しかった。串に刺さったウズラのタマゴの味玉みたいなのも美味しかった。睡眠不足のせいでちょっとお腹が痛いので優しい味が嬉しかった。
かなりゆっくり、たぶん1時間以上居座ってしまったけど、周りには一本の道路と広い田んぼがあるだけの場所で天気もよく、そよ風がたまに通り過ぎて行くなか、竹や木でできた東屋で思い思いにゴロゴロしたりお喋りするのは気持ちよかった。
インドネシアに長く滞在したいので留学を考えているという話を、こっちに長くいる先輩たちにやっとできて、かなり情報が更新された。心が引き締まった。

その後、マミさんのお店でさらに少し休憩した。あると見てしまうバティックだけど、女一同でワイワイ物色していて見つけて気に入ったバティックは高級すぎて諦めた。3月に来た時にも気になっていた貝のピアスを買った。

店を出て、マミさんの友人のアートコレクターが、買ったコレクションを自宅の敷地内にある大きな建物に展示しているそうで、みんなでそれを観に行った。絵や彫刻がたくさん展示と保管されていて、絵と立体から成るインスタレーションもあった。みんなけっこう素朴に作っている印象で、コンセプトを聞いても特別に面白いとは思わなかったけど、自分も素朴モードになったら面白かった。結束バンドを穴を開けたビニールにたくさん結んで縁を装飾している作品があって、こんなふうに使うのキモくていいなとかドクロに花の模様描いちゃうの万国共通のダサさで愛しいなとか思ったり、立体的になっている絵のような作品をこっそりちょっと触ってみたり彫刻の顔を真似してみたりして遊んだ。
ただ、展示室の近くの小さい部屋の本棚に蜂の巣があったり(肩くらいの高さの段の、本の手前なので、ここの本はしばらく出していないんだなと察した)、天井の照明がバチバチいいながら煙を上げ始めたので慌ててブレーカーを落としたり、オーナーが「この絵ちょっと見てよ」と言って重ねて立てかけられていたキャンバスを動かしたら、絵と絵がくっついていたらしくバリッと剥がれる音がしたりして(作品は無事だったけど雑さが笑えた。昔、清里現代美術館に行った時にも思ったけどすっごくたくさん集めているコレクターの人の、ちょっと雑な作品の管理が垣間見える瞬間ってわりと嫌いじゃない)そういうことの方が面白かった。

その後、ボロブドゥールに残る人たちと車でジョグジャの南の方へ戻る人たちとに別れて出発し、わたしたち戻る組は途中、大阪出身の人が営んでいるという日本料理屋さんでご飯を食べた。たしか既に14時頃だったので腹ペコだったしみんな疲れていて、庭のよく見える東屋みたいな座敷席で、ゴロゴロ寝そべったりした。わたしは中華丼を頼んだのだけど、菜っ葉かけご飯かな?というくらい野菜たっぷりで、否、むしろ野菜しかなく、特に肉は求めていなかったのでこれは丁度いいやと思ってムシャムシャ食べていたら2割ほど食べた頃に「肉を入れ忘れちゃってた、ゴメン」といってトンカツを一皿出してくれた。サックサクで美味しかった。ソースも、いわゆるトンカツソースよりも少し複雑な味がして美味しかった。満腹になったら疲労がどっときて眠くなった。

少し渋滞している道をさらにガリさん(関西弁のはいった日本語を凄く上手に話すインドネシア人の男性)の運転で走り、ジョグジャのほうへ帰ってきて、仲間たちを降ろした後、わたしが興味を持っていたインドネシアの国立芸大のキャンパスに、ケンタさんと3人で、連れていってもらった。学校の様子を話して聞かせてもらい(今朝に引き続き留学に関して色んな情報を得て、構想が大幅に変更されつつある)その後ようやく一時帰宅した。
さっき車に乗っている間に連絡を取り合って決まったのだけど、今日はこの後、19:30ごろランガとアイコさんと待ち合わせて、キリスト教の教会で毎週月曜日にガムランを練習している人たちのところに見学させてもらいに行くことになっていた。正直かなり疲れていて、眠いしお腹と頭がグラグラでシンドかったけど、あわよくばガムランを叩きたいぞという下心のみで力を振り絞って、行くことにした。
明日からジャカルタへ行くので、主に服を洗濯して干し(手洗い+本気絞り+部屋干しでわりと乾く)、軽く荷造りをしてから家を出た。ちょっと仮眠くらいできるかと思ったけどその時間はなかった。

道はもう分かる、というつもりでさっそうと自転車で走り出した。夜風が気持ちよくて、走っているうちに疲れも忘れてきたけど、ダサいくらいあっさり道に迷った。慣れない街はずっと景色が似て見えてなかなか覚えきれない。待ち合わせ時間に遅れるのが申し訳なくて、ランガに英語で「道に迷ったからちょっと待ってて」とメッセージを送った。かなり焦っていて、彼の「俺今向かってるとこだけど大丈夫?」に対して夜道の不安さと動揺で頭が働かずかろうじて出てきた単語を「daijobu」「solution」と送ってしまいアホ丸出しだった。

ほどなくして合流した。アイコさんとはこの時に初めて会ったのにあまりそんな感じもしない親しい雰囲気で話せて嬉しかった。3人で出発した。アイコさんはバイクは乗れるけど後ろに人を乗せるのはできないとのことだったのでわたしはランガの運転するバイクの後ろに乗せてもらった。

わたしが明日の朝に空港までのタクシーをアプリで呼ぶため、あとジャカルタでサバイブするためにSIMカードを買うことになり、それを買えるお店へ、教会へ行く前に寄ってもらうことになった。ランガにほとんど全部やってもらって、無事に買うことができた。SIMカードをプラモデルみたいな枠から外してケータイに挿し込むところまでその場でやってくれた。
言葉が喋れないと1人では全く何もできなくて本当にやばいなとビシビシ厳しい気持ちになった。今回の旅はみんなのやさしさに感謝だけどいつまでも甘えられるわけじゃないぞ自分よ、勉強しろ

SIMを手に入れて、気を取り直し教会へ向かう。
ジョグジャに着いて遊んだ最初の日もランガにバイクに乗せてもらって、ムティアとリョウさんと4人でプランバナン寺院まで行ったなあと思い出して、思い出すってレベルで過去になっていることに気がついて、時間が経ったのをしみじみ感じた。
あの時このバイクに乗っていて「サラックの屋台がやたら沢山あるね」とただ無駄話をしたかったのにできなかった件は、今なら「この季節はサラックの旬なんだって今日知ったよ」と言えるのに、なんとなく言いそびれた。人のバイクの後ろに乗る機会はその後も何度かあったので「あの時は筋肉痛になるくらい緊張して座席の縁を掴んでいたけど、今はもうかなり楽にバイクに身を任せられるようになったよ、ちょっとなら手も離せるよ」、と伝えたかったけど難しいので諦めてしまって、実際に手を離して鼻歌を歌ったりしてみた。まあしかしそんなの伝わるわけもなく
「次に会う時はもっと話せるようになるぞ」という去年の夏にも思ったこと、そろそろ実現しないと目標が腐る、自分よ勉強をしろ。


到着した教会は、ちょっと不思議な形をしていた。横に入口があって、横に広い。正面の壁にジャワ語の文字で何か書いてある立派な板が貼ってあった。屋根の形がなんとなく面白かった。古さと雰囲気は公民館っぽかった。ガムランの練習の人たちはこの辺りに住んでいる人たちらしい。月曜のこの時間にここに集まって、結婚式やコンサートに向けて練習をしている。でも見ていると厳しいリーダーがいて、とかっていうよりは、ちょっとやっては笑いながらお喋りをし、ちょっとやっては、という感じで、なんて良い練習風景なんだと思った。なんかちょっと羨ましかった。
アイコさんとランガと、その様子を眺めていたら、メンバーのおじさんが、部活の時とか現場仕事の時に使うお茶を沢山入れておいて下の方についている蛇口から注ぐタンクみたいなアレをさして、お茶飲んでいいからね、あっ、コップないね、持ってくるよ、とプラスチックの平たいケースに入れたお茶をもう一段もってきてくれた。中身は温かいお茶で、甘くて嬉しかった。こっちで飲むお茶はたいていかなり甘い。
途中トイレに行ったら何かの制服らしいものを着たおじさんが無言で笑いながらこちらをメチャメチャ見てきて、今回の旅で初めてかなり嫌だなこの人と思った。表現と感じ方の行き違いだったと思うことにする。
ランガのガムランに関する話をアイコさんと聞いていたら、またメンバーの1人が小さいゴマ団子をたくさん、紙の箱でくれて、直前にランガがくれたキシリトールガムがら口の中にあったのでそのまま一緒に食べてみたけどあまり良くなかったので片手にかじったゴマ団子を持ったままガムをしばらく噛んで捨てて、ゴマ団子を食べた。

わたしがトイレから戻ってきたら、さっき挨拶した以外の人にも楽団のみなさんに名前を把握されていて、アオイ!やるよ!そこ座って!みたいにワイワイうながされた。ガムランを!!叩ける!!!わたしはワクワクしながらアイコさんとランガの間にある楽器の前に座らせてもらった。ひとり一台ずつ叩かせてもらえるらしい。楽器の前にあぐらをかいて座る。
楽譜は手書きで、手作り感のある製本をされて100ページくらいあった。西洋のあれではなく数字と点で書かれていた。その読み方と叩き方をランガと楽団のメンバーに教えてもらった。左から右へ1〜7と鍵盤に名前が付いている。まずは叩いて、そして次の鍵盤を叩くと同時に、さっき叩いた鍵盤を左手でつまんでミュートする。そのミュートすることにも奏法として名前が付いていたのだけど忘れた。
結構難しくて、見てるほど簡単じゃないんだなあと苦労したけどこういう習得みたいなのは得意ではないが好きなのでかなり楽しかった。まだ覚えきってないくらいの時に「じゃあみんなでやってみようか」ということになり、大勢でいっせいに演奏をした!強く叩くと大きい音がして楽しい!!
オロオロしながら無理やりついていったけど、簡単な曲を選んでもらっているので、だんだん手とメロディを覚えてきて、スピードをだんだん早くしてまた遅くしてというのにもギリギリついていけるようになった。ファイブ、シックス、ファイブ、と隣でランガが歌いながら叩いてくれているのが聞こえた。自分の前髪が目の前に落ちてきて邪魔だった。

ひとしきり練習に参加させてもらって、場はお開きになった。みんなと一緒に写真を撮ってもらった。ガムランをたたく木槌を持ってポーズを決めると誰でもちょっと強そうになっちゃうのがおもしろかった。 

3人で帰りにご飯を食べることになった。わたしは昼ごはんがかなり遅かったので正直そんなにお腹は空いていなかったけど、2人と一緒にいたかったので食べることにした。
屋台っぽいお店のイートインだったのだけど、話が盛り上がってというか止まらなくなってしまって結構長居した。今日は朝昼晩と全ての食事で長居している。
主にランガの作った作品の話とか、その根本にあるコンセプトとか音に対する考え方とか、そういう話をしていた。ランガとアイコさんそれぞれの環境音を聴くことについての話もよかったし、話の流れでエルメートパスコアールの動画をみんなで見たりした。わたしも自分の作品のこととか友人と作ったバイノーラルマイクで録音した作品の話とかした。
作品の話を「ただメタルバンドやっていた時期」とか「録音した音をMaxで加工しまくっていた時期」とかいう感じで聞いていくと、もうその人の人生の話に片足突っ込んでくるのが、とても良いなあと思った。作品の話を聞くとその人のことが知れる。昨日、山で日本人の友人と「芸術それだけで何かになるとか価値があるとかっていうことよりも、芸術をみんなで見たり話したりして共有する時に何かが起こる気がしていてそれが良いよね」という話をしたのを思い出した。
今晩は、最初はアイコさんと夕飯を食べる約束だったので、期せずして得たランガの提案と思い切って混ぜてしまったのだけど、正解だったように思う。自分が提案した人と人が会う計画がうまくいくと嬉しい。2週間くらい前に日本で、わたしが最近仲良くなりたい友人と会いたいことと、すでに仲が良い別の友人と会う約束があったのを合体させて3人で会うことにしたら、わたし以外の2人は初対面だったけどベストな会になったのを思い出した。


ランガとは多分これでしばらくお別れなので、3人で写真を撮ってから別れた。すごく楽しかったから、疲れは吹き飛んでいた。
わたしは帰り道も迷うというポンコツながら、なんとか無事に帰宅した。水浴びついでにさらに少しの洗濯を済ませ、明日からの旅支度をした。SIMが使えるか確認しようとケータイを、充電してアプリを立ち上げて今回手に入れた電話番号を登録したけど、実際に今試しにタクシーを呼ぶわけにいかないので、明日の朝ブッツケ本番で使うことになった。ググった感じ大丈夫そうな気がする。

明日の朝起きられるかちょっと自信がなかったので、朝7:40に起きて8時に家を出て両替に行って帰ってきて9時にタクシーを呼ぶ、というタイムスケジュールをノートに書いて開いて枕元に置いて寝た。今朝のような寝ぼけた失敗をしたくない。