日記190624


最寄りの駅から、いつも使っている駐輪場まで、歩いて2分くらいだ。走ると1分。その途中、アパートの一階部分がごっそりコインパーキングになっているところを通り抜ける。ここには張り紙があって、曰く「通り抜け禁止」だ。でも、駐輪場を使っている人の多くはここを通っていて、わたしもそうだ。電車通学を始めた中学生の時からいつも。ここを通るのが近道だからだ。なお、近道をしない場合、30秒くらい余分にかかる。
わたしはいつもここを通る時、車と車のあいだを通り抜けながら、車の持ち主とかコインパーキングの管理をしている人に遭遇したくないな、と軽く思っている。一度もそういう人に会って怒られたことはないけど、ここを人がたくさん通り抜けていくことのデメリットが一応想像できるから、ちょっと罪悪感がある。

今日の帰り、そのコインパーキングにさしかかるところで、目の前にとまっていた車のヘッドライトがピカピカ、と二回光った。どうやら鍵を開けたか閉めたかしたようだった。鍵はけっこう遠くから操作されたのだろう、とりあえずわたしの視界には車の持ち主らしき人物はいなかったが、ビビってちょっと早足になってしまった。


コインパーキングをぬけた先には数件の飲食店がある。どれも個人経営っぽいこじんまりとした店で、居酒屋とか洋食屋とかカラオケスナックがあるが、わたしはネパール料理屋以外は入ったことがない。ここを通る時は、居酒屋の隣の白っぽいアパートの入り口のところの低い木に、黄色い花が咲いていたり咲いていなかったりするのをいつも見る。今日は同じ株の先に、黄色の他に小さい赤いのも咲いていて、え?と思ったが、あえて確認しません、という気持ちが勝ったのでそのままの歩調で通り過ぎた。(あえて確認しないことによって心に残すというのをけっこうやってしまう。)

地下駐輪場の入り口にも、少し前は黄色い花が咲いていたが、今はもうない。
蛍光灯で照らされた緑色の階段を降りる。ここの壁には「不審者に注意!」という張り紙が以前からあるのだが、最近これが、怖い表情をした男性の目と眉のあたりだけを切り抜いた写真を使ったものに変わっていて、なんだか生々しくて気持ち悪い。リュックのポケットから出して手に持っている鍵がチャリチャリ鳴るのを聴きながら降りていく。最近ちょっと調子に乗ったので脚が筋肉痛だ。階段を三段降りたぐらいから、音の響きが明確に変わり始める。家の鍵と、自転車の鍵と、木のキーホルダーと金属のキーホルダーをカラビナでまとめているのだけど特に木のキーホルダーがいい仕事をする。好きな音だ。階段を降りきる。


この地下駐輪場は、地上が暑い日でもヒンヤリしていて、湿度が高くて、静かで、かなり音が響く。自分の足音とか鍵をはずす音とか、そういう細かい音がいちいち遠くまで広がるのがいつもちょっと楽しい。床はぜんぶ緑色で塗られていて、しばしば結露で濡れている。

とまっている自転車のうちのいくつかに、レインコートが広げてかけてあった。黄色とか、ピンクや薄いミントグリーンもあったけど青いのが多い。少し珍しい光景だった。今朝は強い雨が降っていたから、レインコートを着てきた人が多かったのだろう。わたしもその1人で、派手な柄の黄色いレインコートを自分の自転車にかけてきていた。レインコートはすっかり乾いていた。わたしより先に出かけた母の自転車も近くにとめてあって、青いレインコートがやっぱりかけてあった。

昼に会った友人と「雨の日にレインコートを着て傘をささずに歩くのいいよね」という話をしたのを思い出した。そういう人ってそんなに多くないから、歩いていてそういう人とすれ違うとちょっと同志みたいな気分に、勝手になったりするよね。

ここはいつもはほとんど満車になる駐輪場だが、今日は強めの雨だったので自転車を諦めた人が多かったらしく自転車の数がいつもよりも少なかった。そのいつもより少ない自転車の一部にレインコートがかけてあったので、やっぱりちょっとの同志がいるぞ、という気分になった。



乾いたレインコートを畳んでリュックに入れるのが面倒だったので、雨はもう止んでいたけどとりあえずガバッと頭からかぶって、自転車をおして地上に出た。
なぜか気がつくと下がっているサドルを昨日上げたばかりだったので、快適な乗り心地だった。夜風も気持ちいい。交差点のところで、前を歩いている人との兼ね合いがうまくいかず少しオロオロする。信号が変わるのを待ってふと左の空を見ると、けっこう明るい光が、ギューンという感じの、鳥くらいの、そこそこの速さで東のほうに飛んで行った。低めのところを飛んでいる飛行機だ、とすぐわかった。
同時に、2ヶ月くらい前のことを思い出した。その日も同じように駐輪場を出て自転車をこぎだして、機嫌がよかったので「ピカピカぼうや〜」とテキトーなデマカセを歌いながら顔をあげたら、ちょっとハッとするくらい明るい光が、目の前の空をやっぱり東のほうへギューンと過ぎていった。歌った言葉とちょっとシンクロしたのが嬉しくて、ピカピカぼうやじゃん!!と思ったんだけど、あれも飛行機だったんだろうなと今日、わかってしまった。

5月に、目の前をぐわっ!と大きな飛行機が通り過ぎたこともあった。飛行機は実際には普通の大きさだったのかもしれない。でも、デカ!と思った。浜松に行った時だ。あの時は、たしか遅めの午後で空はまだ明るく、車は国道を走っていて、わたしは助手席に座っていて視界はひらけていた。その視界の大部分を占めていた青い空が、突然、なんの前触れもなくぜんぶ飛行機でいっぱいになった。びっくりした。突然壁が現れたみたいだったけど、まばたきくらいの短い瞬間の後にはもう消えていた。いきなり気が狂って幻を見たのか異世界に飛んだのかCGかと思ったけど、運転していた友人も目撃していたので現実だった。後部座席に座っていたメンバーは見逃していた。それくらい一瞬だった。あれは左手にある航空自衛隊の基地に着陸せんとする飛行機だったようで、浜松では時々見る光景らしい。とはいっても車の運転中にあんなふうに遭遇するのはちょっと珍しいですね、と聞いて、わ〜い単純にラッキー、と思った。でも総合的にはけっこう怖い体験だった。

近くを飛ぶ飛行機は速い。飛行機に自分が乗っている時とか、遠くの空に飛行機が見えている時には、「あ〜、飛行機だな〜」と眺めるくらいの余裕がある。でも、近くで見るとあれはけっこう速い。浜松の時はショックなくらい速かった。駅前で何度か目撃してきた光も、まさに「ぎゅーん」という言葉くらいの速さで視界から消えた。たぶん飛行機の速さそのものはそんなに変わっていないんだろうけど、はるか上空を飛んでいる時には、ぼんやり眺めたりできるのに、目の前の空を飛ばれるとけっこうビビる。



飛行機って、速いんだな、ピカピカぼうやは、ちょっと近い飛行機だったんだな〜、、と思いながら、青になった信号を渡った。ちょっと行って、家のあるほうへ道を曲がると、歩いている姉がいた。帰りの時間がこんなふうにかぶることは珍しいので、自転車がギリギリ倒れないくらいのノロノロ運転に切り替えて、イヤホンで音楽を聴きながら歩いている姉の視界に、えい、えい、と入って、気づかせて、少し喋った。音楽が途中だから聴きたいんだけど、という雰囲気を若干感じたが、彼女のその気持ちには気づいていないふりをして会話をした。
夕飯どうするか考えてる?考えてない、卵と牛乳は買ったよ、あと、ネギがあったのは覚えてる。ネギか〜。そのレインコート買ったの?いいじゃん。いや、だいぶ前に買ったやつ。


帰宅して、空腹と体の疲れで調理をやる気がでないので、冷蔵庫にあったチョコパイをキッチンの床に座って食べた。姉と、チョコパイって美味しいけどなんか正直そこまででもなくない?という会話をした。冷蔵庫で冷やしすぎたチョコパイはちょっとゴムっぽい。
ネギを切り始めた時に思いついて、一度手を洗って部屋へ行き、スピーカーを持って来て音楽をかけた。ネギをまる2本ザクザク刻んで、水と小麦粉と卵と、中華スープの元とキムチを刻んだのをぐちゃぐちゃ混ぜて、ごま油で焼いた。まあまあ食えるものができた。これはビール欲しいやつだな?と頭をかすめたけど、最近ちょっとお酒を飲まないでいてみているので、シークワーサーの甘くないジュースを炭酸で割って飲んだ。一口飲む?と姉にすすめたが、酸っっぱ!と笑いながら不味そうな顔をされた。わたしはこのバカ酸っぱいのをけっこう楽しんで飲んでいるのだけど、他の家族が全然飲まないのでなかなか減らず、傷んでしまいそう…という懸念をしていた。やっと今日で飲みきった。