ーーー2024年・春 インドネシア滞在日記⑨ 5/18〜5/20
5/18(土)
朝、7時。ばっちり予定通りに起床。今日は全ての荷物を持ってスマランへ行く。ここから25日の明け方まで、つまり丸1週間、山に滞在する。ワクワクだ〜!
バスの時間までに、衣類とタオルとシーツと枕カバーをランドリーに出して回収まで(たたむサービスなしの最速で2時間)済ませたいので、ランドリーの開店(8時)に合わせた早起きだった。店の人が店に来るのを店の前で待ち、袋を渡してお金を払った。2時間後に回収しに来ます、と伝えて、朝ごはんを食べに行った。近くの店で、Bubur Ayam(鳥のお粥)を食べた。なんかここは店の人たちが全員あんまり元気がなくて店内もやや清潔感に欠ける感じだったので、ちょっと心配になった。味は普通だった。みんな低血圧だったのかな…。
甘くない美味しいブラックコーヒーが飲みたい…と思って、これまでしばしばWi-Fiを借りて長時間居座ってきたちょっとリッチなカフェに行き、ホットコーヒーをテイクアウトした。気合を入れるためのちょっとした贅沢です。帰宅してから冷蔵庫のものを食べきり、化粧をし、荷物を整理する。このくらいで1時間半が経過している。ランドリーの受け取りに向かう道すがら歩きスマホでランドリーから滞在先へ戻るバイクタクシーを予約する、という良い子はやっちゃダメな離れ業を使って、受け取り後ロスタイムゼロでバイクタクシーで戻ってきて、洗濯物を全て自力でたたみ、荷造りを仕上げ、滞在先を完璧な状態にして、爽やかな気持ちで出発した。11時過ぎ、計画通りだ!!(と、本当に思っていたんだけど、ガロン(ウォーターサーバー的な)の水をそのままにして来てしまって、数日後に来た方にご迷惑をおかけしました。飲んだ分を買っておき、途中の水は捨てて帰るのがマナーだった…ごめんなさい!!)
大きなスーツケースがあるので車のタクシーを使って、昨日サラティガから帰ってきた時と同じDayTransの事務所へ行った。昨日の確認の通り、荷物の重さを測り、超過料金を払った。大きな荷物はここにまとめておいて、とのことだったので、受付の壁の後ろの、舞台裏みたいなスペースに置かせてもらった。バスは12時発なので、飲み水を買いにちょっと事務所を離れた。意外にも、水が買えるような店が近くになく、しばらく炎天下を歩くはめになった。バスでおやつを食べたいとは思わないけど、血糖値が下がり過ぎて車酔いとのコンボでグラグラになる(以前、朝食を食べずにマゲラン行きのバスに乗った時つらかった)のは防ぎたかったので、紙パックのグァバジュースもひとつ買った。
時間になってバスに乗り込む。荷物が無事に乗って本当にホッとした。人間は満席だった。今回も端っこの席に座れた。自分のすぐ右隣が若い兄ちゃんで、彼もかなり気を遣ってくれているのがわかったけど、まあまあ気疲れした。わたしは暑い窓にびったりくっついて、なるべく隣の兄ちゃんと距離をとろうと努めた。
月曜の時点で、今度の日曜日(19日、もう明日)にスマランのカフェでライブをやらせてもらえることになっていた(カルトゥンさんの采配)のだけど、その情報がようやくインスタグラム上にあがっているのを見つけた。(カルトゥンさんはSNSをやっていない)
わたしのインスタから拾ったのであろう写真を使って告知画像を作ってくれていて、知らないあいだにライブにタイトルがついていた。"WHERE The River MEETS The Sea"…。これは、拙曲『湾岸行々』の英題が “Urban port” になる前にYouTubeに載せていた曲目で、おそらくカルトゥンさんがいつのまにか見て覚えてくれていたようだ。よ、よく見てくれてい過ぎでは、、、嬉しさで頭がどうにかなりそうだったが、店の人とインスタグラムで直接やりとりをして告知用の画像の高解像度のデータをメールでもらったりそれを投稿したりなど、スマホでやれる動きを全部やっていたらめちゃめちゃ車酔いした。すっかり温くなった甘過ぎるグァバジュースをほんのちょっとずつ飲みながら、外の景色を見て耐えた。
12時に出発して、15時半くらいにスマラン市内に着いた。え…?早…。(補足、インドネシアのこれくらいの距離のバスは、日本の長距離バスみたいな休憩が全くない。運転手の腰が心配…。)
バスを予約した時の地名を告げられたので、特に何の目印もない路上で降りた。ここからカルトゥンさんの家が近いらしいので、後で合流して、山で必要ない荷物はスーツケースごと1週間、家に置かせてもらう計画になっている。
ちょうど降りたところに屋台が出ていて、そこで食事を取ることもできそうだったけど、あまりにも疲れた(酔うバスは本当に疲れる)のでもう少しリラックスできるところ、壁と床のある建物がいい…と思って見渡すとちょっと向こうのほうにカフェっぽい建物があったので、Google Mapで確認すると飲食店だった。重いスーツケースをゴロゴロやりながら移動し、店を覗くと、かなり強風で扇風機が回っているだけでクーラーがない。ラッキー!けっこう快適そうだったので、ここに決めて食事をオーダーした。中途半端な時間なので客はわたししかいなかった。鶏皮のブラックペッパー炒めとご飯にした。ちょうどオーダーして待っているタイミングで、カルトゥンさんが「今どこ〜」と連絡をくれて、「着いたけどご飯食べて休憩してます…もうちょっと後で合流したい」と返したけど、それでも本当に近所だったっぽくてすぐに居場所を探し当てられてしまい、スーツケースだけ先に持って行ってくれた。マジでありがとう…。山にはスーツケースを持っていけないので、この1週間で必要なものとそうでないものを考えて荷造りをしてきたのだった。けっこう頭を使ったけど、持っていきたいものも多かったので、メインのリュックと着替えを入れたエコバッグとギターと、靴、入り切らなかったパソコン、というばらばらした大荷物になってしまった。
ご飯を食べ終わって、椅子が変な高さ、かつ硬くてつらかったけど、それでも疲れが勝っていたのでひとしきりボンヤリした。本当に虚空を見つめてボンヤリしていた。お店のお姉さんは「クーラーなくてごめんね〜」と言ってより多く風が当たる席を勧めてくれた。
30分後くらいに再び合流、出発。無様な大荷物だったけど、パソコンはカルトゥンさんがリュックに入れてくれたりして、バイクに乗れる形になんとかまとまった。我々は今晩、ここしばらく毎週やってきたスタジオセッションの最後の回をエンジョイしてから、山へ行く!
スタジオの時間までだいぶ余裕があったので、途中にあったちょっと良いカフェでWi-Fiを借りつつコーヒーを飲んで2人で休んだ。今朝は早起きしたし、もうすでに疲れていたけど、<自分の新しいアルバムのサブスク配信のため、ジャケットのイラストをアップロードする>という重要なミッションがあった。(※できれば明日のライブの時に「サブスクにあるんで!」と言いたいがために、こんなギリギリで動いている)最後の修正を頼んでいたイラストのデータが届いたらすぐにでもその作業をしたかったので、今か今かと待ち構えていたが、カフェにいる間にはデータは届かなかった。大きな犬を連れたお客さんが来ていて、珍しかった。あと、カフェのWi-Fiのパスワードが「コーヒー牛乳はおいしい」みたいなフレーズでおもしろかった。
ガソリンスタンドに寄ってから、三度目のスタジオへ。先週と同じく、カルトゥンさんがドラム、ジョハンがベース、マルノがヴァイオリンを演奏する。先週、時間が足りなかったので、今週は3時間とってもらった。カルトゥンさんとマルノは明日のライブも一緒に出演するので(ジョハンは楽しいから来てくれているだけ/最高)ひとしきり曲を練習するけど、即興のセッションもやりたいじゃんね、と言って色々やって遊んでいたら、3時間でもあっという間だった。
わたしが日本でたびたび一緒に演奏してきた人たちと今日のメンバーとは、当たり前だけれど親しんできた音楽も、現在進行形で聞いている音楽も得意な演奏も当然に全く違うため、同じ曲が全然違う感じになっておもしろかった。ロックバンドみたいなドラムとベースの『湾岸行々』は思い出深かった…。
別に日本でだって同じようなことは起き得るんだけど、「友達だから」という理由で集まっていることによる作用、という感じがして、嬉しかったしおもしろかった。とても良い経験だった。
スタジオを出て、いつものワルンで串焼きを食べた。ジョハンとは今日でしばらくお別れだ。ほんとありがとう。帰国したら『響け!ユーフォニアム』の新しいやつ観るよ!
マルノは今日は自宅に帰って明日は現地集合なので、わたしはカルトゥンさんのバイクにまた乗せてもらって、タフタの小屋まで山を登った。
夜は先週よりも寒くて、着いてからもだいぶ凍えた。満月の日が近づくと気温が下がるんだよ、とタフタが言っていて、どういうこと…?と聞いたら、統計でそうらしい。なんとなく腑に落ちなかったけど、実際に寒かった。満月は23日だ。
5/19(日)
スマランのカフェ「Mukti Cafe」でライブの日!!!
朝ごはんは、タフタ作・Sintrongの入ったナシゴレン。わたしは本当にこの香草が好き…。カルトゥンさんはご飯を食べてから、用事があるといって早々に山を降りて行った。夕方にタフタと一緒に来てね、現地で合流しよう、ということになった。
昨日の深夜に、アルバムのジャケットのイラストのデータがAdit(バリに住んでいる友人)から届いていたので、タフタに「こういう事情でインターネットが欲しいんです…」とわがままを伝え、バイクでちょっと山を登ったところにある「ここいらで一番Wi-Fiが早いカフェ」に連れて行ってもらった。タフタはカフェのおばちゃんに「この人にWi-Fiを貸してあげて」と頼み、おばちゃんが口頭で伝えるWi-Fiのパスワードをわざわざ伝票のすみに書いてくれた。ありがとう、でもそれくらい自分でできるよ〜〜!彼はカフェに用事がないし笛の制作が立て込んでいるらしく、わたしを置いて帰っていった。用事が済んだら連絡してね。はい!
せっかく来たので、あんまり知らないのを、と思い、Kunir Asamという飲み物を頼んだ。ウコンとタマリンドを使った、ジャムゥと呼ばれるジャワの健康ドリンクだ。甘酸っぱくて苦味があった。もちろん飲み干したけど、ギリギリのところでちょっとおいしくなかった、と正直に書きます…!そして、わたしはもうすっかり思考回路がデブになっていたので、パン粉をつけるタイプのピサンゴレン(揚げバナナ)って珍しい(たいてい天ぷら系)じゃん〜!という言い訳(言い訳にもなっていない)をして、それも食べた。
この頃になってくると、自分のインスタグラムを周囲のインドネシア人も見ているので「こいつ食い過ぎだろ」と思われるのも恥ずかしかったし、お金を無駄に使っているのを見られるのも恥ずかしいので(だったら食べなきゃ良いのに)、ピサンゴレンを食べたことは内緒にして、Kunir Asamの写真だけをアップする始末だった。人に隠れて食べだすのはちょっとヤバい兆しのような気がした。
しかし、カフェのWi-Fiは「ここいらで一番」というにはあまりにも遅く、映像のアップロードは到底不可能だった(調べたら、瞬間的にかもしれないけど 1.7Mbpsしかなかった。なんだそれ!テザリングしたほうが早い)。もっとも優先順位の高いジャケイラストのアップはできたし、1時間ぐらい粘ったけど動画は諦めることにしてタフタに「もう帰ります〜」と連絡した。歩いて戻れそうな気もしたけど、約束したので迎えに来てもらった。
ピサンゴレンを食べたのは内緒なので、そのままバイクでいつものおかあちゃんのところへ行き、平然とお昼ご飯も食べた。野菜の煮込んだ感じのや、テンペ。美味しかった。
家に戻り、タフタは1階で笛作りの作業に入り、わたしは2階でアルバムサブスク解禁を知らせるための種々の作業を地味に進めるなどした。各々にやることがあって各々で過ごしている、というのは一番居心地がいいです…。1時間くらいそんな過ごし方をして、ひと段落したので1階へ降りたらタフタが「昨日きた人が持ってきてくれた」という大きなグレープフルーツのような緑色の果物を、これ食べよう、と剥いてくれた。
絶対それは無理だろ…という厚さの皮を、爪でもなく指の腹でメリメリいく。皮を剥くと、実はグロテスクなくらい赤くムチムチとしていて、めっちゃくちゃ美味しかった!!かなり大きくて、中の白い皮も厚い。味はグレープフルーツ、仕様はブンタンに近い。Buah Bali(バリの果物)と言っていたけど、その名前でググってもあんまり情報が出てこなくて謎のまま。ただ、これが剥かれた状態でジョグジャのスーパーで売っているのをよく見かけていたのを思い出した。ちらっと見て「なんかグロいな」と漠然と避けていたのを後悔した。もっと早く買って食べておけばよかった…!
日々の目まぐるしさでなんとなく疲れていたけど、果物の酸味でかなり頭が冴えて、このあとかなり元気だった。美味しかった。もっと早くこの果物が美味いと知っていたら、きっと毎日食べていたと思う、本当にこれ好き、とタフタに伝えたら「おう!どんどん食え」みたいになってしまって次々に剥いてくれた。毎度すみません…
タフタは、わたしの腕が蚊に刺されて悲惨なことになっているのを知っているので「この皮を肌に擦って塗ると虫除けになるよ」と教えてくれた。さっそく腕や足に擦り付けたら体がいい匂いになった。効果のほどは不明…
スマラン市内までは、ここから1時間半くらいかかる。出発する1時間くらい前に、わたしたちは「もう散々やっていてかなりいい感じだけど、一応やっとこうか」と、拙曲『The Invisible Sea』をちょっと練習した。この時に「ここ、こうやってハモるのめっちゃ良くない?‼︎」というアイディアをタフタが発明して(その後のレコーディングにも採用)盛り上がった。忘れないように、といってiPhoneでそこだけ録音してから出発の段になった。
バイクに乗る時に、風から目元をガードするためにメガネをかけたりすることが一般的によくあるみたいなんですが(わたしもサングラスをいつもかけていました)、タフタが度の入っていないメガネをこの時に初めてかけていた(いつもの濃い色のサングラスだと夜道には暗い)。その姿が新鮮で、わたしはちょっと「ウッ」ってなってしまった。め、メガネも似合うんですね………
そう、もしかしたら失礼かもと思って全く書いてこなかったが、彼はとてもハンサムである。顔もかっこいいけど立ち方や仕草や体格もかっこいい。普通にしているだけでとても絵になる(わたしの惚れ補正も多少あるだろうけど、ルイージも大きい声で You're so photogenic.って言ってた)ので、わたしは時々「ウッ」(※うっかり惚れそうで息が止まっている)ってなっていたし、恥ずかしさのあまり、これだけ一緒にいたのに「ツーショットのセルフィー」みたいなキラキラした写真は一枚も撮れませんでした‼︎‼︎
ともかく出発。そういえば初めて来た時には、バイクに乗る時にギターをうまく乗せられなくて腰を捻った状態で1時間くらい乗って、すっごくつらい思いをしたけど、もうこの頃にはわたしはすっかり慣れていて、ギターを背負っている時の上手い乗り方を習得していた。
道すがら、バイクを運転しながら「さっきのところ練習しよう」とタフタが言う。歌おうってことだ。たぶん、バイクの前後に乗っていると、後ろの人の声は前の人に聞こえるが、前の人の声は後ろの人にほとんど聞こえない。ほとんど練習にならないけど、でも楽しそう、いいアイディア!
風にかき消されないように大きい声で歌うので、歌のニュアンスなんか吹っ飛んでしまって、やっぱり全然練習になんてならなかった。それでも、さっきのアイディアのハモりのところを上手く歌いきるたびに、やっぱりめっちゃいい〜!うえ〜い!と2人で喜んだ。何度も同じところを繰り返して歌った。大きい声でワァーッと歌うのが珍しくて可笑しかったし、バイクの速さにも高揚した。頬がキラキラするみたいだった。標高の高い山を下って街へ向かうにつれて、夜の空気が湿度と熱を帯びていくのが肌でわかった。
その後さらにひとしきり走って、会場のカフェに到着。日はすっかり暮れているけど、暑い。バイク移動中に歌って笑ったさっきのシーンの比類なき尊さにわたしの心はすでに温まりきっていたが、このカフェがまた、とても素敵な場所で、さらに気分が上がった。
スマランは、華僑の多い街として知られている。とても大きな中国式の寺があるし、中華街もある。その中華街の入り口の門のすぐそば、提灯がたくさん灯っている通りの一角に、今日の会場はあった。ここ、Mukti Cafeは、コーヒー(シングルオリジンも出す本格派)の美味しいカフェであると同時に、煙草屋でもある。一階が煙草屋で、二階がカフェだ。店構えもちょっと中国風のレトロな感じで、煙草の葉っぱが入った大きな瓶が、棚にたくさん並んでいた。煙草入れや周辺の道具たちもかわいいのが置かれている。あと、巨大なパイプのオブジェ(大人2人分くらいのサイズ)があった。店の奥のカフェへ登る螺旋階段のそばには、煙草の葉っぱが入っているのであろう、大きな袋が米俵みたいにどしどし積み上げてあった。2階は、低めの椅子とテーブルの席に加えてバーカウンターがあり、コーヒーはそこで淹れているようだった。すでにけっこう人がいて、賑わっている。
会場に着くとカルトゥンさんがいた。店のお兄ちゃん(おじさん?)はめちゃくちゃ笑顔のやわらかい人で、到着したばかりの我々に「コーヒーを出すから好きなの選んで」といってメニューを渡してくれた。アルゴも来ていて、今日は撮影しないけど一緒に音響機材の設置を手伝ってくれたし、ボーカル用のマイクを1本貸してくれた。準備を進めているうちにマルノも来て、メンバーが揃った。マルノは、チャイナタウン合わせで、中国っぽい模様の入った赤いシルクのシャツでキメてきていた。普段ずっと山にいるタフタも珍しく襟のあるシャツを着ていたけど「街めっちゃ暑い…」と言ってボタンを多めに開けていた。カルトゥンさんは「ウルトラーメン」というカタカナとラーメンを食べているウルトラマンのイラストが描かれたふざけたロンTを着ていた。わたしは衣装不足なので、先週のホームパーティーの時と同じ、鎖骨のあたりに青っぽい花か草みたいな刺繍がはいった白いTシャツだった。スマランのモールで急いで買ったこのTシャツが、碧っていうよりもここでのAoiに似合う気がして、気に入っていた。みんな思い思いで良い感じ。
演奏が始まるまで少し時間があったので、店の人が出してくれたSingkong(キャッサバ)の柔らかく揚げたのをつまんで、ベランダみたいな席で一同のんびりした。近くのスナックか何かから、中国語っぽいカラオケの歌声が爆音で聴こえていて、ライブどころじゃなくない??という感じで最高だった。全然続けておいてもらってかまわないっす…「ザ・スマラン」という感じの空気が、嬉しかった。(5年前にもよく遊びに来た街だ)
開演前、ルイージと留学生仲間が来てくれた。昨日もお世話になったスタジオの受付の、日本語マスターのお兄さんも来てくれた。先週のパーティーにも来てたヴォーカリストのお兄さんも来てくれていた。ともかく、知っている人がたくさん、知らない人を連れて来てくれていたし、店の大部分の席は知らない人たちで埋め尽くされていた。完全に満席で、立ち見の人も、なんとなく来たような感じの人も大勢いる。集まりがよすぎる…どうなってんだ…
ライブの直前、カウンターのそば、ステージの下手側に、三脚に載せたカメラとPCをがっしりセッティングしているおじさんがいて、そういえばあの人は何者なんだろう、でもきっとカルトゥンさんの仲間だよな、と思って聞いたら、全く誰の知り合いでもないことが判明した。ぎょっとして本人に尋ねると、スマランで開催される音楽イベントに出向いて自主的にライブ配信をやる、という活動(????)をしている人だった。普通にありがたいので、よろしくお願いした。(終えてから、「配信、見てたよ!」と言ってくれた日本の友人が二人いました、ありがとう〜)
ライブが始まった。一曲目はひとりで弾き語り。ワイワイしていた客席がすっと静かになって少し緊張感が出たけど、曲の合間のわたしのグダグダMCとカルトゥンさんの茶々によって和らいだ。あんまり準備する時間がなかったのもあって先週のホームパーティーと同じセットリストで演奏した。音響的にはけっこう状況が厳しくて、スピーカーの数や向きが及んでおらず、カルトゥンさんにわたしのギターの音がほとんど聞こえていないっぽかったけど、目と気合いで乗り切ってもらった。さすがです…。わたしたちもチーム感が出ていたし、場の雰囲気が良くて嬉しかった。テーブル席の、ヒジャブを被った知らない女の子たちが真剣に耳を傾けてくれていたのが印象的だった。
終わった後に気がついたんだけど、なんとジョグジャのライブにも来てくれていたギャリーがまた来てくれた…!!友人と二人乗りのバイクで、今朝から丸一日かけて来たらしく、めっちゃ尻痛かったwwwと言って笑っていた。う、嬉しい〜。こないだとは違う友達と一緒に来てくれていたのも嬉しかった。アントも女性の友人を連れて来てくれたけど、彼らが到着したのは演奏が終わった後だった。タフタがそれを軽くからかっていて、なんかよかった。ルイージの留学生仲間たちも気のいい人たちで、インスタグラムを交換したり、一緒に写真を撮ったりした。
わたしはライブが終わったくらいから使い捨てコンタクトレンズの具合が悪くてちょうど写真を撮るタイミングで右目がものすごく痛くなってしまったが、痛みに耐えて目を瞑るのと、楽しい表情を作るのとを掛け合わせて、我ながら見事にごまかして写真に写った。が、痛い方の目から涙が出て止まらないのですぐバレてしまい、タフタがさっきのメガネを貸してくれそうになったけど遠慮した。帰りも運転する人が風から目を守ったほうがいいです。あとメガネ似合うから
終演後しばらくして、お客さんもけっこうのんびり残っているタイミングで、カフェのメニューにある塩ラーメンを出演者一同いただくことになった。すごい味が濃いから、味薄めって頼んだほうがいいよ、とカルトゥンさんが教えてくれたのでそのようにオーダーした。それでもかなり塩味が強かった。
ラーメンを食べながら、音響やばかったねえ、など色々と乗り切った気持ちでおしゃべりしていたら、アルゴとカルトゥンさんが「俺らでMV作らない?」と言い出した。インドネシアバージョンってことでさ!えー?!なにそれやりたい。やるとしたらどの曲?そりゃ『The Invisible Sea』でしょ、できればタフタと一緒に録りたい!でも彼がやりたいかどうかわたしはわからない。と答えたところ、アルゴとカルトゥンさんがちょっと向こうにいたタフタを呼んで、経緯を話し「mau nggak?」と聞いた。
この訪ね方を、カルトゥンさんはわたしにもよくやる。「Yes or No?」だ。わたしは言葉が下手なのでこうやって聞いてくれると答えやすくて助かるけど、この時はソワソワした。タフタはすぐ「やろう」と頷いたけど、いや、でもこれ「No」って思ってても言えない雰囲気じゃん、大丈夫かな?!(※わたしはタフタを好きになり過ぎているので、だんだん「嫌われたくない」と考え始めて1人でソワソワしていたが、後から振り返ると全く大丈夫そうでした。よかった)
それにしても、もうあと10日で帰国するしスマラン滞在は実質あと残り5日しかないのに、まだここから新しい企画が持ち上がるの、あまりにも、あまりにも、あまりにもパワフルすぎて、本当にこの人たちは、なんなんだ。愛と勇気がありすぎる友達だ……
さあ帰ろう。本当に楽しかった。ライブは20時スタートだったので、すでにけっこう時間が遅く、みんなでゾロゾロと23時過ぎにカフェを後にした。それぞれのバイクや車に乗って、手を振って別れた。
わたしはタフタと一緒にまた1時間半かけて帰る。めっちゃ喉乾いたね〜、なんか飲み物を買いたいね…、と言いながら出発した。タフタは、街まで来たついでに、バーナーのガスボンベを買って帰りたいらしく、カフェから5分くらい行ったところの路上に出ていた屋台に寄って、使い切ったものを回収してもらって新しいのを買っていた。こういう時の「ちょっとこれ持ってて」(鞄からボンベを出す時に邪魔だった上着)に、当たり前みたいな慣れがあって嬉しかった。飲み物はなんとなく買いそびれた。
街はめちゃくちゃ暑かった。スマランは、ジャワ島の北側(太陽の通るほう)に位置した港町で「暑い」ことで有名だったりする。実際、街の中心部は気候や地形の影響に加えて、コンクリートの舗装と高層ビルによる熱がすごい。夜になっても気温が下がらない。そんな街の中心部から離れ、山へ向かって標高が上がるにつれ、どんどん気温が下がった。半分くらい道を来たところで完全に寒くなったので、バイクを止めて2人とも上着を着込んでまた出発した。さっきまでの暑さが恋しいくらい寒かった。
眠くなったらやばいので、わたしたちはどうでもいいことを喋り続け、たまに歌ったりしながら帰った。話題が途切れるたび「dinginー!!(寒い!)」と叫んで寒さを散らそうとした。『Laskar Perangi』という2008年公開のインドネシアの映画があって、わたしは5年前に人に勧められてこれを観て、その主題歌のインドネシア語ポップスをちょっと覚えていたので、きっとタフタも知ってるはずと思って歌ってみた。もちろん知っていた。サビを一緒に歌った。その歌詞がシーンにぴったりだったので引用します。
Menarilah dan terus tertawa 踊り歌い続けよう
Walau dunia tak seindah surga この世は天国みたいに美しくはないけど
Bersyukurlah pada yang kuasa パワー(※神など)に感謝しよう
Cinta kita di dunia この世のわたしたちの愛は
Selamanya 永遠に
Walau dunia tak seindah surga この世は天国みたいに美しくはないけど
Bersyukurlah pada yang kuasa パワー(※神など)に感謝しよう
Cinta kita di dunia この世のわたしたちの愛は
Selamanya 永遠に
こういう「大きい愛と希望」みたいな歌は、人と声を合わせて歌うのにふさわしい感じがした。他にもいくつか歌ったけど、一緒に歌える歌はそんなに多くなかった。でも睡魔と戦う必要があったので、ドンキホーテの歌とか中島みゆきとか、キャッチーなメロディのものをわたしは手当たり次第に歌っていた。雰囲気が台無しである。でも、後ろに座っている人にとって眠気対策はめちゃくちゃ切実だった。行きのバイクで『the Invisible Sea』を歌った時みたいなキラキラはもはやなかった。寒さに耐えるのと、寝ないのに必死だった。
無事に、夜中の1時くらいに帰り着いて、顔だけ洗って着替えて、あるだけの布を体にかけてすぐに寝た。身体中がほとんど痛いぐらい疲れていた。
5/20(月)
朝!食材が何もないし、タフタは煙草の葉がなくなったのを買いに行きたいとのことで、朝一番(とはいっても8時半くらい)にバイクで出かけた。最初の週に遊んだ川辺をさらに奥へ進んで、大きなArenの木の斜め上を超えていくような山道を行き、田んぼを過ぎると別の村があって、もう少し行くと少し賑やかなエリアに出る。そこに彼の行きつけの煙草屋があった。
昨日のMukti Cafeもそういえば煙草屋だったが、タフタ曰く「街の煙草屋は値段が高いわりに味がやや劣る」らしい。この辺の村で買うほうが安いし新鮮で美味しい、だから街の煙草屋に用はない。ちょっと笑いながらハッキリ言い切っていた。
店に着くと、まだ準備中だった。店主の準備ができるまで待つ。バイクを店の前に停めて、一旦、店の向かいにある小さな屋台へ行き、バナナの皮で包んだ小さいおにぎりみたいなものや、袋に入ったBubur(ぜんざいみたいなおやつ)などのローカルな軽食を買った。
その朝ごはんを手に、また道を渡って店に戻り、扉をくぐる。中で待っていて良いらしい。サンダルを脱いで上がった。タイルの床だった。店内、めっちゃすごかった!細長くて小さい店の両側に、左手にはすべて煙草の葉っぱが、たぶん5キロくらいずつ大きな透明の袋に入って、床から天井までびっしりと積み上がっていた。棚板が渡してあって、一段に4つくらい縦に、横に6〜10こずつくらい置かれている。それが4段ある。200種類以上は確実にありそうだった。全ての袋にピンクや黄色の小さい紙が貼ってあって、そこに手書きで銘柄や産地や風味の具合が書かれていた。右手の棚には、巻紙や煙草ケースや葉っぱに混ぜて一緒に吸うスパイス各種などの小物が、本当に大量に、しかしよく見えるようにきれいに陳列されていた。その棚に挟まれて、店の真ん中には細長いテーブルと、屋台で見るようなプラスチックの椅子が置かれていて、試しにここで巻いて吸えるようにと、ライターや巻紙と灰皿が置かれていた。
わたしたちはさっき買った朝ごはんをこのテーブルで食べながら店主の登場を待った。食べ終わって手持ち無沙汰になり店内をウロウロしだした頃、さらに客がきた。制服を着た高校生の男の子二人と、おじさんだった(※インドネシアは喫煙の年齢制限がない)。大人気店じゃないか…!
わたしは、想像していた以上に煙草屋がおもしろかったのと、日本に愛煙家の友人がけっこういるな、と思ったので、自分には吸う習慣がないけどお土産としてちょっと買って行くことにした。選ぶ基準が何もないので、タフタが買うのと同じ葉っぱを買う。一緒に巻くといい、という cengkeh(クローブ)の砕いたものと、巻紙と、一応フィルターも買った。店の人が規定の一番スタンダードな量を半分に分けてくれたけど、なんかすごいナチュラルに全会計をわたしが払うことになった。タフタがちょっと「えっ」ってなっているのを店員が制したのをわたしは見逃さなかった。物価が高いほうから来ている外国人にお金を払わせようという傾向があるのには納得しています。確か全て合わせて合計700円くらいだった。マジで全然いいです…
煙草屋の斜向かいには八百屋があったので、そこでいくつか適当に野菜を買ってから帰った。再び田んぼのあいだを抜けて、山に戻る。本当に景色がいい。朝の光は栄養だ。
帰って髪を洗いたかったが、水道の調子が悪かったので直しに行った。ここは川からパイプで引いた水をシュロの皮のもしゃもしゃで作ったフィルターを用いて三度濾過して使っている。飲み水は買って来ているが、皿や体を洗うのはこの水だ。このDIY水道はすでに見せてもらったことがあったけど、暇なのでタフタの後をついて行った。何回見ても手作りすぎておもしろい。その帰り道で、スープに使える葉っぱと、安定して美味しいいつもの香草、Sintrongを採って帰った。
さっき煙草屋の向かいで買ったもののうち、まだ食べていなかったBuburを食べた。ブブル=お粥なのだけど、甘い味付けで、米ではなく豆、つまり「ぜんざい」だ。いつも使っているティーカップにちょうどの量だった。むにゃむにゃした透明のゼリーみたいなのが入っていて美味しいんだけど、なんだろうこれ、おそらく片栗粉の類…
朝ごはんがとても控えめな量だったので、髪を洗ってきたらもうけっこうお腹が空いていて、のんびりお昼ご飯を作った。さっき採って来た草や買った野菜で簡単なスープを作ってご飯と一緒に食べた。
タフタは、山本さんの笛(わたしの日本人の友人がインスタグラムごしにオーダーしてくれて、先週、名前を彫るところまで終えていた)に紐をつける作業をしていた。こんなに硬い床に座ってずっと作業していて腰が痛くなったりしないんだろうか。タフタは他の笛も近々納品の予定らしく、けっこう集中していたので、作業を眺めるのもそこそこにして、わたしは2階へ引き上げた。自分もやることがあった。先日必死でジャケットのイラストをアップロードしていた新しいアルバムが無事に配信リリースされているのが確認できたので、それをSNSで告知する投稿をしたりした。こういうのに意外と時間がかかる…
夕方になって、買って来た野菜がまだあるのでそれを使って、Kacang panjang(インゲン豆みたいなものだけど4倍くらい長い)やキャベツを炒めたものと、小さく切って揚げ焼きにしたテンペと卵焼きと白いご飯、という夕飯を作って食べた。
タフタは夕飯の後も笛の作業をしていた。が、不意に息抜きみたいに笛を吹き始めたので、わたしも自分の笛を持ってきて吹いた。しばらく一緒に適当に吹いているうちに、互いのアイディアを拾いあってちょっと曲みたいになってきて、短い繰り返しのメロディとアドリブを交互に奏でる2本の笛のアンサンブルができた。最終的に、なんかピョコピョコしたちょっと間抜けな曲になったけど、この素朴な遊びがすっごく楽しかった。タフタも楽しそうで「今度キャンプに行く時にも笛を持って行ってコレやろう」と言ってくれた。
わたしは、この人は本当に笛を作るだけで生計を立てているんだろうか…、というのが気になっていた。ここ数週間、かなりの日数を一緒に過ごしているが、彼が笛を作る以外の仕事をしている様子は一切なかったのだ。やっとこのタイミングで訊ねてみたけど、はぐらかされてしまった(わたしの質問の仕方が下手だったのか…?)。
でも、「自分のやりたいことがあったらそれを深く信じてひとつずつ行動していくと世界中が自分の味方をしてくれて、全部うまくいく」という話を、持ち前の真顔とガチの声のトーンでしてくれた。夜だし、自分たちしかいなくて静かだし、寒いくらいの落ち着いた空気のなかでそんな話をしていて、これはきっと今後もしばらく忘れない場面だ、と思った。本気の夢とか理想について友と語り合ってしまう、知ってるあのムード。
彼の言葉を受けて、めっちゃ「そうですよね〜〜〜」と思いつつ、わたしは本当にしょうもない卑近な発想で「なんか自己啓発系の本とかSNSアカウントとか成功した芸能人とかが言ってるやつ〜」とも同時に思ってしまって、そういう自分のダサい捻くれかたが恥ずかしかった。この人は、その言葉通り、実際に自分の理想の生活を実現して、周囲の人たちにも還元している。わたしもその輪にちょろっと入れてもらって、すごく良い時間を過ごしている。やろうと思ってもそう簡単にはできないことを、仲間と協力して楽しくやってのけている。やっぱりこの人はすごい。ちょっとスピってるけど、っていうかもしかして多少スピってるくらい、何かを素直に信じていられるほうが、ずっと生きやすいし、素敵なのかもしれない。
まあそうだよねえ…………と言って、深くため息をついてしまった。わたしには言えることがない。すっかり静かになってしまった。でも気まずいとは思わなかった。落ち着いている。もうピーナッツは食べ飽きたなあ、と思っていたら、タフタが昼間に買ったタバコを巻き始めた。あ、わたしも吸ってみたい、と言ったら、教えるように見せながら器用に一本作ってくれた。
わたしは酔っ払って帰って来た時の自宅のベランダぐらいでしか煙草を吸わない人間だけど、この煙草がめっちゃ美味しいことはわかった。フィルターを巻かないストロングスタイルなので、かなりキツいんじゃないかと思っていたけど、葉っぱの香りの良さが圧勝していて、全然キツい感じがしなかった。葉っぱにまぶして一緒に巻いたcengkeh(クローブ)の細かいカケラが、吸い込む時に小さく爆ぜ、唇に甘い風味を残した。
うわ〜!めっちゃ美味しいじゃん〜!と、わたしはやや大袈裟に喜んで、でもあとは黙って二人でプカプカやっていた。煙草を呑んだ後、ただ息を吸う時が一番気持ちよかった。夜の山のシンとした空気が、肺にいっぱいになる。煙草って、なるほど、こういうことだったのか。空気をゆっくり吸って味わう時に、ちょっと手を貸してくれるもの…。そういうことなら、煙草ってかなり素敵じゃん…!
暗くて何も見えないけど、わたしたちは西の山のあるほうを向いて、それぞれ壁にもたれてゴザに座っていた。沈黙の重みみたいなものが心地よく、喋りたい気分じゃなかった。わたしが喋る気分じゃない時に隣にいる人も黙っているのが、ずっしりと深く嬉しかった。
光や空気と小さな生き物たちが、朝の時には朝を、昼頃になったら昼を、夜になれば夜を、全員で一斉に作り上げているような気がした。全部がお互いにとって腑に落ちているような、しっくりくる雰囲気があった。朝、昼、夜、って、いや、pagi, siang, sore, malam って、こうやってできているんだ、みたいに思った。みんなが各自のありたいようにある様が、つまり時の流れと景色ってこと…?
今週の夜は本当に寒い。日本だと10月くらいの寒さのような気がする。やっと持ってこれた長袖のTシャツが、寝巻きとして活躍した。