クナイプのハンドクリームへの感謝

 
今日、疲れた帰り道で、手があまりにもカサカサしていて破けてしまいそうだったので、マツキヨでハンドクリームを買った。かなり疲れている時の、「胸が張り裂けそうな」という表現がしっくりくるような、コップのふちギリギリまで水が入っているような、あと一つ何か条件が揃ったら途端に泣き出してしまいそうな限界状態というのがあるが、最近は慣れないハードなことが多くて2日に一度はそうなっている気がする。ともかくこの手のカサカサを癒したかった。

店頭には、ハンドクリームだけで4段くらいのコーナーができていた。yusukinの香りつきのが3種類、三色並んでいるのが可愛かったり、ハンドモデルも使っています!と書かれた業務用というのがあったり、フエキのりのパッケージのふざけたようなものもあった。一番下の段には見慣れたニベアもある。選択肢が多くて迷った。わたしは疲れると判断力をごっそり失うが、この時もそうで、どうやって決めたものか悩んだ。一度、業務用のものを手に取ったが、レジへ進もうと左へ視線をやると、輸入っぽい感じのハンドクリームやボディクリームが並んだゾーンが目に入った。クナイプのハンドクリームがこれも3種類出ていて、ひとつは寝る前用、もうひとつは何だったか忘れたけど、一番左にあったもののパッケージがちょっと面白くて目を引いた。

全体は鮮やかなオレンジ色で、回すタイプのフタは安っぽいプラスチックのシルバー。チューブの上部には、口角の上がった表情のぬいぐるみのクマが二匹(大きいのと、少し小さいクマ)が仲良く写った写真がプリントされていた。「穏やか」で画像検索したら出てきそうな、ザ・穏やか、といった印象である。そして「Show me your smile」と書かれた白い字の下に、同じような白いゴシック体で「あしたも笑って」と書かれていた。
明日が「あした」と表記されているし、全体が輸入系っぽい(ドイツの製品らしい)デザインであるため、どことなく自動翻訳のような変な日本語のように感じて可笑しかった。それに加えてクマの親子が晴れた陽気の花畑で仲良さそうにしている写真があまりにも優しく感じて、これを買うことにした。

マツキヨを後にして、駅のホームで電車を待つあいだにさっそく使ってみると、ネロリの香りと書かれている通り、甘い匂いがした。手を鼻に近づけて、マスクごしにもう一度息を吸い込む。少し生っぽいくらい甘くて強い香りだ。なんとなくインドネシアを思い出した。あの国では甘い匂いをたくさん嗅いだ。花もタバコも果物もお菓子も、空港の空気さえも、大抵のものが甘ったるかった。旅先で嗅いだ匂いのことは覚えやすいし思い出しやすい。ああ、暑い気候も、薄着の暮らしもまだ遠い。懐かしい気分だ。こことは違う場所や季節のことに思いが巡った。
 
嬉しくなってインドネシアの友達に「この匂いはインドネシアを思い出します!」とインドネシア語で送ろうと思って写メを撮ったけど、Bau=においという単語が思い出せなくて面倒になってやめて、来た電車に乗ってぼうっとしているうちに眠ってしまった。
 
自分があまりにもヘトヘトなのがよくわかった。ハンドクリームに期待していたのは単純に手の乾燥を癒すことだけだったのに、想像以上に癒されてしまった。これまで、パッケージに「きっとうまくいく」とか「だいじょうぶだよ」などと書いてある商品を見るたびに、誰が誰に言ってんだか…と小馬鹿にしていたけど、おそらく今日の自分はこの言葉にもまんまと癒されてしまった。「あしたも笑って」なんて、言われなくても笑いますが、ずっとこのメッセージを発し続けているパッケージ、パワフルすぎる…。
 
自分は明らかに、ここ数年でかなり涙もろくなったし、かわいいぬいぐるみや良い香りや、犬の動画に癒される度合いが増したような気がする。簡単に癒されるので、つまり生きやすくなったということなんだけど、漠然と、代わりに何かを失っているような気がする。そのうち、子犬の写真になんかそれっぽい前向きな言葉が添えられたカレンダーとか買ってしまうようになるんだろうか…。捻くれたところが減って、心が広くなったといえば聞こえがいいかもしれない。とにかく今日はクナイプに感謝、あしたも笑います。