5 雨と霧のなかのチル

7月29日
4時くらいにやっと寝たのに、7時半くらいに目が覚めてしまって、もう一度寝ようとしたけど寝られず、しばらく目を閉じてじっとしたりしていた。とにかく埃っぽくて、そのせいで喉が痛かった。マスクはしていたけど、寒いし床は硬いしで、かなり消耗していた。寝た気がしない。
10時からリハをやるよとウキルが教えてくれていたので、それに間に合うように9時には起きようと思っていたけど、かなり早く起きてしまった。時計を見たら2時間くらいしか寝られていないし、寒すぎて動けないのでただそこに座って自分の体を抱いたりさすったりしていた。病気でもないのにこんなにシンドイ目覚め、なかなかない。

やっとの思いで身支度(といってもコンタクトレンズ入れるくらい)をして一階に降りると、そこにいた女性にインドネシア語で何か声をかけられて、わからないのでジェスチャーでやりとりをし「お茶飲む?」と聞かれているとわかった。あたたかいお茶をもらった。ありがたい。「ご飯食べる?」も聞いてくれたけど、それは断って、一昨日にジョグジャのパン屋で買った小さなオニギリやお菓子を、食べそびれていたのが鞄に入っていたのを、よく噛んで食べた。傷んでいたらやだなあと思いながら食べたけど大丈夫だった。

ウキルのバンドのリハを見に行った。ウキルもギターを弾いていたんだけど、もう1人のギタリストの男性が、かなり良い感じの人だな〜と思って眺めていたんだけど、よく見たらギターがやばかった。ボディが、流木かな?くらい朽ちたような状態になっていて、塗装は当然ない。原型はおそらくフライングブイ的なやつなんだけどほぼ流木だった。意味がわからない

ボーカルの男性、エコーと少しだけ話をした。こちらが英語ガタガタなのであまり色々は話せなかったけど、彼らのバンドのCDが買えた。日本円にして600円くらいで、お得すぎるというか良いのかしらという気持ちになった。
片付けをしているのをなんとなく眺めていたら、ウキルに「水浴びした?」と聞かれ、したい!と答えたら、近くにいた女の子が案内してくれるというので、ついていくと、行き先は件のトイレだった。ま、まじか〜
こんなに冷え切っているのに完全な冷水しかないのか、とかなり残念な気持ちになる。
でもウキルの奥さん始めそのへんにいる人たちがみんな髪が濡れていたし、昨日の埃っぽさとかもリセットしたかったし、水浴びをしないという選択肢はなかった。

やってみたら普通になんとかなった。水が冷たいので凍える思いだったけど、終えたらとてもスッキリしゃっきりした。お腹が空いていたので自分のお腹がぺちゃんこで、さらに力を入れてヘコませて、少しでも体温を逃すまいとしたりした。意味があるかわからないけど
こっちに来てから常に脚が筋肉痛だなと気づいた。緊張しているのもあるし普段やらない姿勢でいることが多からだろうか。バイクの後ろに乗るとか毎回トイレがインドネシア式とか町の歩道がやたらデコボコだとか変な姿勢で寝ざるを得ないとか。

雨が降っていたので屋外のフェスティバルを観る気分にならなくて、iPhoneWi-Fiを充電させてもらいながら、絵が展示されているスペースでだらだらしていた。
そこにいたペインターの人とかとお喋りしていたところにジュンさんがきた。彼はこっちで会う予定になっていた日本人の友人(先輩)で数日後の8月からジャカルタに行く時にお世話になる予定なのだけど、今日は山の村の様子を見に来たそうで、フェスティバルは見ずに12時には出発しなきゃいけないらしい。ええ〜すぐじゃーんとか言いながら近くの普通の家の姿をしたご飯屋さんで、ジュンさんのインドネシア人(スマランの人たち、今度一緒にアートの企画をやるらしい)の友人たちと合流してご飯を食べたりした。
その後、一緒に村を少し散策して、ジュンさんは帰っていった。わたしは屋台のミーアヤム(鶏ラーメン)を食べた。偶然ウキルたちに会った。奥さんがベビースターラーメンを棒につけて揚げたみたいな食べ物を勧めてくれて美味しかった。ただ肝心のミーアヤムは味がちょっと薄いし店の周り一帯にハエがたくさんいすぎて若干引いたし大きなバケツに溜めてすっかり濁っている水で皿を洗っていたし地面に置いたガスコンロで肉を煮ていたけど、今までで一番現地っぽくてもはや笑えたので嫌ではなかった。
もう昼過ぎになるのに、まだまだあたりには霧がたちこめていて、20m遠くはもうよく見えないくらいの状態で、ずっと朝みたいだった。タバコの畑が幻想的になっていた。

1人になって、ブラブラ歩いて、また絵の展示してあるところに戻った。絵のあるところはお菓子もサラック(スネークフルーツ)もあって、居心地が良いのだった。
さっきもお喋りをした、ペインターの、同い年くらいの男の子 アスルと、ユスティヌスという名の(メモしたけど一度も声に出して呼べてない)おじさんとお喋りした。喋っているうちに「絵を描こう」ということになり、わたしはアスルのスケッチブックに、おじさんの似顔絵を描いた。彫りが深くて鼻がシュッとしていて普通にハンサムなので、かっこいいなあと思いながら描いたら完成した絵について「ハンサム過ぎない?ははは」と笑われて、つい「いやあなたハンサムでしょ」と日本語で言ってしまった。
今度はアスルの顔を描いた。アスルも彫りが深くて両目が二重で近くてインドネシアや中東系の顔つきで、観察するのが楽しかった。わたしもおじさんに似顔絵を描いてもらった。墨と筆でメッチャ雰囲気ある感じに描いてくれてグッときた。ジャワ語の古い文字とか漢字を書いたりして遊んだ。
その頃にもう1人アスルの友達という同世代くらいの男の子がきて、ぱっと見日本人とか韓国人の顔をしていてちょっと太っちょなんだけど、漫画みたいないいやつだった。ゲームのプログラミングをしているらしく、ゲームやアニメが好きとのことだった。自分はヒキコモリ?だから全然日焼けしてないんだ、と言っていた。ちょっと日本語もわかるらしく、話しやすかった。どうやらかなりインテリぽい。YUI知ってる、とかあの曲が好きとかこのゲーム知ってる?とか共通の話題があったのでいろいろ話した。
雨が止むまでひとしきり喋ってから、3人でフェスティバルのステージを観に行った。

フェスティバルでは、いろいろな演目があるなか、コンテンポラリーダンスもちょこちょこやっていて、いわゆるコンテンポラリーダンスらしい振りって日本と同じやつあるなあーと思いながら観ていたんだけど、印象に残った作品があった。色水が入った袋を客に配って、白いTシャツを着た2人のダンサーにぶつけさせる(Tシャツに色がついていく)シーンがある、男性二人組のダンス作品だ。けっこうショッキングだった。1人がTシャツに蛍光グリーンの網タイツを履いていて、おカマっぽい歩き方をするんだけど甲高い声で「ギェー!」とずっと叫んでいたし、うつ伏せになっている相方の首を前から掴んで持ち上げて、持ち上げられるほうは体を真っ直ぐにしたまま起き上がるという振りがあって、初めてみたのだけど普通にスゲェーと思った。

セリフのある演目などの時にちょいちょい2人に「今なんて言った?」と聞きながら観れたので昨日よりも理解しながら観れて楽しかったし途中でアスルが椅子を手に入れてきてくれて、そこからは座って観れた。雨も降ったけど屋根の下から見られたので助かった。
午後の部が終わって夜の部までのあいだ、休憩時間があったので、また絵のあるところに戻って少ししたら、日本人の友人知人たちが到着して、一晩ぶりの再会を喜んだりした。そのままワイワイ夕飯を食べた。日本から夫婦で来ていたアーティストの2人が、今晩わたしたちもこの村に泊まるけど、あの埃っぽい硬い冷たい床に寝るより、わたしたちの部屋のほうが少しマシっぽいから良かったら一緒に寝ない?と言ってくれて、即答でそうさせてもらうことにした。心の底から嬉しかった。

蜂の子とか蜂のみならず名も知らぬ虫たちを混ぜて甘辛く炒めた料理を食べた。ここ2日ほどでかなり自分の生活に関する価値観を別のモードにしていたので、「虫食べる?」とゲテモノっぽく勧められたけどぜんぜん気持ち悪いとか思わなくて、空気読めないみたいに普通に食べてしまった。美味しかった。あと、竹かなにかの葉っぱでつつんだお酒、甘酒と呼んでいるようなのだけど、米を包んで発酵させてあるそのままなので、固形のその米を食べるというものだった。これがメチャメチャ美味しかった。いわゆるフルーティーな日本酒のような爽やかで甘い香りで、かなり洗練された印象の味だった。ちょっぴり酔っ払った体感があった。おちょこ一杯ぶんくらいだろうか。近くにいた日本人の知人と「うまいよね」と盛り上がった。


夜の部は、太い竹でできたベンチで観ることにした。舞台の正面に2列、この竹のベンチがある。本当にただ太い竹を横向きにして足をつけただけのベンチなのだけど、結構耐久性があるっぽい。
フェスティバルを昨夜と今日の昼みた感じ、ダンスが9割の演目に入っているんだけど、正面性の強い振り付けが多かったので、竹のベンチで正面から観ることにした。昼に横から観ていた時は肝心なキメポーズがのきなみ横向きでちょっと残念だったから、竹のベンチはお尻が痛くなるけど耐えた。昨日も客席でたまたま会って言葉が通じないなりにコミュニケーションをとって遊んだ6歳くらいの女の子が偶然通りかかって、挨拶をしたらまた隣にきてくれた。一緒に観て、時々ちょっかいを出してくるのがかわいかった。
昨日もやっていたあ愉快すぎるダンスはやっぱりあった。少し衣装が違うけどやってることは同じだった。眠すぎてあんまり覚えていないけど、そのグループの名前などが描かれた手作り感のあるシールをもらった。

この日は比較的まともな部屋で、布団と毛布と枕を使ってたっぷり寝られた。わたし以外の2人の「おやすみ」から寝付くまでが早くて、ちょっと羨ましかった。