五月末の雑記


(これは五月末に書いたけど投稿し忘れていたものです、嬉しくなる前)


あっという間に2ヶ月近くたってしまった。

わたしは相変わらず家にいる。でも2ヶ月前のように「本気で家にいる」というほどの強い意志は、もう保てなくなった。今は惰性で家にいるような気がする。

ジョギングだけは順調にその後も続いていて、目標にしていた2軒めのガソリンスタンドより少し先まで、折り返し地点がのびた。地図をみて確認したところ、この往復は約4km。あと1キロ伸びたらキリがいいな〜と思うので、もうちょっと距離を伸ばす方向で続けたい。実際、こんなに出かけていない割には体力の衰えとか、脚が弱った印象もない。なんならちょっと体が軽いし、何より、走って帰ってくると少し気持ちが元気になるのが、本当に救いになっている。

今日も走った。ただ、けっこう心が限界みたいな状態で家を出たせいだろうか。ジョギングコースを6割ほど走ったところで、視界に入る、自分と同じように走ったり歩いたりしている知らない人たちが、ふと、全員すごく憎く思えてきてしまった。これはマズイと思って脇道へそれた。こういう気持ちに取り憑かれていくと通り魔とかやるんだろうか、と想像して恐ろしくなる。たいした理由もなく人を殺す人の気持ちなんて分からない、とは、正直わたしは思えない。たまたま今、ちょっと冷静でそこそこ健康なのでやらないだけというような気がする。


脇道へそれると、全然知らない人の住む、全く馴染みのない住宅街が広がっていた。道の右も左も家ばかりだ。なるべくさっきの道へ戻らないようにしながら自宅へ帰ろうと思って、曲がる道を慎重に選びながら進んだ。いつのまにか走るのをやめて歩いていた。

知らない人の家の前に、初めて見る、名前を知らない草があった。丸くて毛が生えた丸い実が、花のように先端にひとつずつついた草が群生していた。ちょっと気持ち悪いけどおもしろい姿だった。
少し行くと、お爺さんが家の中で電話をしている声が聞こえた。犬を散歩させている人もいた。移転した後の、からっぽになった婦人科があった。「ファミリープラン」の自販機と、「ラーメン缶あります」と書かれているのにラーメン缶は売っておらずコーヒーばかりの自販機が並んで立っていた。
ここで大きな声を出したらみんなが窓から顔を出しそうなくらい、360度、ぐるりと家に囲まれていて落ち着かない。

そのままのろのろ歩いて帰った。軽快に走っていく男性に追い抜かされた。後ろから近づいてくる足音が男性のものである、というのが、聞いただけで分かった。その人が通り過ぎる時、もう少し避けてくれれば良いのにすごく近くを通られて、そんなことに若干の嫌悪感を抱いた。知らない男の人が不要に自分の近くを通り過ぎることに嫌悪感や不信感を抱くのは、もしかして多くの女性がそうかもしれないけど、「多くの女性」にそれについて質問したことがないのでわからない。わたしだけが過剰に警戒しているだけかもしれない。


昨日は、アメリカで起きている状況に関して、ドキュメンタリー映画を観たりインターネットの記事を巡ったりしていたのだけど、ふとツイッターのトレンドに「Kalimantan」と出ていたので(わたしはなかばふざけてトレンド地域設定をインドネシアにしている。カリマンタンは、何事もなければ今年の秋に行く予定だった島だ)調べたところ、ISISのシンパが長い刀で警官を殺し自身も死んだという事件が南カリマンタンで起きたという。
それは、アルファベットの文字と、おまけみたいな写真だけの情報だったが、自分にとってはけっこう鋭利だった。海流が渦巻く大洋のような、誰もが知るアメリカの状況に関する印象とは全く違って、知らない場所の凄惨なひとつの事件は、その長い刀という凶器のせいだろうか、冷たく鋭くわたしの想像を掻き立て、深い傷を負って動かなくなった肉体がどんどん硬くなっていくような場面を想像をさせた。そんなわけはないんだけど、まるで自分しかこの事件を知らないような気がして、ぞっとした。


 
この2ヶ月のあいだ、自分にも色々なことがあったといえばあった。
ベッドを買って、睡眠の環境がよくなった。
花の手入れをマメにやるようになったおかげで、ベランダが盛り上がってきた。
バジルとパクチーと大葉の種を植えたら芽が出た。
桜は完全に葉っぱに変わって、紫陽花が色づき始めた。
友人が誘ってくれて朗読を録った。
結局またツイッターは見始めてしまって、日々じわじわダメージを食らっているけど、ツイッターごしに連絡をいただいて配信ライブに出演したりもしたし、ちょっとした嬉しいこともあるにはあった。
風の谷のナウシカの漫画版を全部読み終わった。
全部嫌になって自転車に乗って、知らないほう知らないほうへ行くんだけど途中で怖くなってしまって、結局田んぼの脇に座ってカエルの鳴き声を録音して帰った日もあった。

フィールドレコーディングが、おじさんに話しかけられたりしてビックリして終わることが時々ある。むしろ、あの感じが好きなのであまりイヤホンでモニターしないで録ることが多い。
今回もそうで、少し遠くに停めたわたしの自転車が、近くの駐車場へ入る車の邪魔をしてしまっていたらしく「どかしますね」と穏やかに声をかけられてビックリして終わった。

https://soundcloud.com/aoi-tagami/200524a