9 食べたり買ったり会ったり

8月2日

朝はわりとノンビリ起きた。昨日までの疲れもあるだろうし今日はタイトに予定を詰めないことにしていたから、午前中は部屋でひとりでダラダラしていた。ドアの向こうからジュンさんの声が「パン置いとくよ」と聞こえ、けっこう二重三重にギクッとして、慌てて支度をした。昨日買ったマフィンとアイコさんにもらったサラックを食べるつもりだったからお気遣いなく!なのになと思いつつ、東屋で休んでいたコスの住人たちに混じって甘いチョコレートを挟んだ食パンを食べた。かなり甘くて喉が渇いたけどアイが飲み物をくれた。
ひとしきりダラダラしたのち、ここの住人であるオクシとアイと彼の息子たちとで、ラグナン動物園へ行った。出てすぐの道で、アイがドラえもんのパッケージのマンゴージュースを買ってくれて、みんなでそれを片手に向かった。
動物園の入り口に「PINTU UTARA」と書いてあって、PINTUが入り口、UTRAが北だよ、と教えてくれた。北ってそういえば前に調べた単語じゃん、とちょっと嬉しくなったのと、グーグルマップで見ていた広い動物園の北、あのあたり、というのがピンと来てよかった。外国語の、自分にとって新しい単語が実際に現地で使われているのを見ると、記憶への残り方が違うような気がした。
動物園は、めちゃめちゃ楽しかった。動物の入っている檻以外の部分が広いのがとても良かった。たくさんの家族が一斉にピクニックできそうな草原とか、かなりたくさんあるベンチとか、色んな種類のカットフルーツを盛り合わせて食品用の白いトレーに乗せてラップした果物セットやお菓子や飲み物を、それぞれ専門に売っている屋台未満の、店というよりそのへんに座って「売っている人」がたくさんいたり、植栽帯がかなり大きかったりして(インドネシアの植物はいちいち大きい)公園としてすでにかなり良かった。動物たちの檻のなかも、植物がかなり積極的に置かれていて、動物園特有のシンドさが少ない気がした。

でっぷりトグロを巻いたサワ(蛇)、たまに後ろ歩きするガジャ(象)、見てみたらかなり地味だったオランウータン、狭い範囲を行ったり来たり歩き続けるマチャン(虎)、サイレンみたいな高い声とガサガサの低音を器用に変えながら鳴くブルン(鳥)、、自分でも可笑しいくらい楽しくて、ずっと目を見開いていたし日常で使わなそうだけど動物の名前をちょっと覚えられた。
途中でアイがタッパーに入ったトウモロコシの天ぷらをリュックから出してきて、みんなで食べた。オクシもフルーツセットを買ってくれて、途中でたまたま会ったドイツ人のカップルと一緒に食べた(世界中を廻る仕事をしているだけあってコミュ力が高い)。
2時間しかいなかったけどかなり満足して、一度コスに帰った。ジュンさんに市場へ連れて行ってもらう約束をしていたので、彼の仕事が済むまで待った。

市場は、強烈なにおいがした。市場へ向かう道路は排気ガスがすごいのでジュンさんがマスクをくれたけど、市場のにおいは嗅ぎたいなと思ってノーガードで歩いた。主に魚とか肉を売っているところがすごいにおいだった。サンダルで来てしまったので足元の汚さのほうがむしろ気になった。
市場には、野菜や肉や果物やスパイスなどの他にも、服とかスマホとか貴金属とか鞄とか靴とか炊飯器のような軽い家電、日用品など、ありとあらゆるものが売っていた。バナナを売っている一帯があったのだけど、なんせ超大量なのでそこらへんの地面にがんがん置いてある。市場の中心になっている建物にも、枝についたままの緑色のバナナを(枝の断面を新しく綺麗に切って、一晩寝かせるらしい)たくさんストックしてあった。
その建物が何階建てかになっていて、ミシンで刺繍をする人たちがいるフロアがあった。その彼らのスキルが尋常でなくて、フリーハンドでミシンを使って、筆で絵を描くようにスムーズに、レースに花の絵を刺繍したり企業のロゴのすみについている®️マークを綺麗に縫っていく。機械じゃないのかよと思った。とても見事な職人技で、見ていてとても楽しかった。話をしてみたら、お金もらえれば今すぐ名前とか縫えるよと言われ、ええー!やってほしいー!と盛り上がって、わたしは鞄に名前を縫いつけてもらった。「i」の点を星にしてくれてなにかのロゴみたいで可愛い。でもあとから冷静になったけど鞄の内側にやって貰えばよかった気がする。小学生でもいまどき鞄の表に自分の名前なんか書いてないよ。嬉しいからいいけど。

大きなスピーカーを置いて、タバコと水を売っているスタッフ休憩所みたいな一角があり、上裸で寝ている人がいたりボロボロのディスプレイでサッカー中継をしていたりして、いい雰囲気だった。そこはたしか3階か4階で、ほとんどイオンの立体駐車場のような外っぽい様相なのだけど、そこから街を見下ろしたらよい夕刻で、景色も抜けていて気持ちが良かった。すぐ目の前の土地で今まさに工事が行われていて、基礎がつくられていた。地平線のほうへ目をやると遠くに高層ビルがシルエットで見えて、手前の市場にはカラフルなテントやパラソルがたくさん並んでいた。夕陽と空が綺麗だった。その後も金のピアスをなかば衝動買いしたりしつつ、だいたいあたりを一周した。

噂の世界一の渋滞というやつの一端を少し垣間見た気がする。そこからの道はけっこう混んでいた。クラクションがほぼずっとあちこちで次々に鳴っている。バイクの後ろに跨っている自分の膝が、ぎりぎり隣の車に擦るか擦らないかくらいの距離を抜けたりしながら、次の目的地へ向かった。ヒヤヒヤしたけど昨日ジャカルタのスピード感を体験したら、今日はもう怖いというより楽しかった。
もともとデパートの倉庫だったところを改装してジャカルタビエンナーレなどに使われるような大きなアート拠点になっているところ(名前を忘れた)に着いてみたらフードコート的なところがあって展覧会をやっていたし10分くらいのパフォーマンスの作品も観れた。ジュンさんの友人がたくさんいて次々に会うのでけっこう長くそこにいた。わたしはガタガタの英語しか出来ないので、たまに話す以外はずっと目を見開いて彼らの会話を聞いていた。途中でいきなりインドネシア語になったり英語になったりを繰り返すので混乱するんだけど英語のところと雰囲気と単語でなんとか理解を試みてはジュンさんの要約と答え合わせをしていた。疲れたけど良かった。
今日の最終目的地はモンドというバーというかライブハウスというか、そういうところで、店主が日本人で凄くインドネシアの音楽シーンに詳しくておもしろい人らしいので会いに行った。実際センヤワの話で盛り上がったりダンドゥのやばい曲とか教えてもらったりもう少し広く観て各々の活動について話し合ったりして、いい時間だった。かなりおもしろい人だった。
建物の雰囲気はちょっと怖いというかアウトローぽい感じだしエレベーターがやばくて張り紙してあるローカルルールでボタン押さないと閉じ込められるらしくてかなり怖いんだけど、24時には閉店するというヘルシーなお店だったので、我々もほどなくして帰った。ちょっと飲み足りないのでタクシーでお酒を売ってる店を少し探したりしたけど、そこはジャカルタで、ぜんぜん売ってなかった。ショッピングモールとかスーパーには普通にお酒が売っているみたいだけど、深夜までやっているコンビニにはお酒がない。帰宅してから缶ビールをちょっと飲んで解散した。タイトに予定を詰めるつもりはなかったのに何だかんだ色んなところで色んな人に会って、疲れたけど楽しかった。

2日目にしてすでに、新しい石鹸と全然あわの立たないシャンプーと、洗面器がないので立ったまま自分の体を洗うついでに今日の服を洗濯することに慣れていて、自分の適応能力がまた高くなったような気がして楽しい。やっぱりお湯が出るシャワーは最高。ただジョグジャに居た時よりも(うがいにしか使わないとはいえ)水に変な味がするのが気になった。喉もちょっと痛い。空気や水のせいなのか単に疲れがきているのかわからないけど。